2019年5月24日の第62回日本糖尿病学会学術集会における、城北病院  副院長 莇 也寸志 先生の発表です。


暮らし・仕事と 40 歳以下 2 型糖尿病についての研究
(MIN-IREN T2DMU40 Study)
―6 年後の二次調査―(第1報)

研究概要

【目的】若年2型糖尿病の長期臨床経過を調査すること。

【方法】全国96施設の20から40歳の2型糖尿病782人を対象に、2012年に診療録と自記式質問票調査を行い、同じ患者を対象に、2018年に再調査を実施した。

【結果】再調査に協力を得た56施設474人の転帰は、死亡11人、転院73人、中断71人、通院319人であり、中断率は18.1%だった。

HbA1cは、2012年の7.6±1.6%から2018年には7.8±1.5%へと有意な上昇を認めた。(P<0.001)

BMIは、2012年の30.1±6.7 Kg/m2から、2018年には29.5±5.9 Kg/m2へと推移し、有意な変化は認められなかった。(P=0.06)

6年間の網膜症の新規発症は32人(1000人年あたり31.3)、顕性蛋白尿・腎不全(血清クレアチニン2mg/dl以上)の新規発症は、57人(1000人年あたり37.4)であった。

【結論】血糖コントロールは悪化し、顕性蛋白尿・腎不全の発症率は著しく高率であった。

発表者 城北病院 副院長 莇 也寸志 先生 に、本研究のお話をうかがいました。


まずはこの研究を実施したきっかけについて教えてください。
約10年前、糖尿病合併症がかなり進行した20代の患者さんが、救急搬送1名をふくめ、立て続けに3名受診されました。糖尿病の患者さんは40代以上が大多数ですので、とても驚きました。偶発的に自施設にのみ生じたことなのかもしれないと思い、他の施設の複数の医師の話を聞くと、同じように、最近若い重症の合併症を有する糖尿病患者さんの診療を経験していることがわかりました。

「若年層の2型糖尿病のエビデンスは少なく、実態はよくわからない。しかし、重症の患者さんが突然来る。」こんな状態をこのまま放置してはいけないのではと思い、全国的な実態調査をする必要があると考え、この研究を開始しました。
この研究では、働き方や経済状況などを含め、詳細に調査されていますが、その背景を教えてください。
働き盛りの若年患者さんについての調査のため、様々な要素が絡み合っていると考えました。研究開始当時はリーマンショックが起きてから間もない頃でしたので、特に労働環境による影響はあるのではないかと考えました。そこで、検査値だけではなく、ライフスタイルと社会経済状況に切り込んだ調査としました。
HbA1cだけを見ると、微増ともとれますが、この結果をどうお考えですか?
全国規模の調査では、通院治療していれば、HbA1cは低下する傾向にあります。今回の調査では、通院しているにも関わらず、HbA1cが有意に上昇しています。また、インスリンを導入した患者さんも増えていました。すなわち、治療方法が強化されているにも関わらず、HbA1cが上がってしまっているという状況です。数値としては微増かもしれませんが、これは大きな問題だと考えます。 また、6年後の顕性蛋白尿の発症率が従来の我が国の報告と比較して、およそ6倍であることがわかりました。
質問の回答傾向から、治療のヒントとなりそうなものはありましたか?
今回の6年後の調査では、糖尿病の家族歴がない、家族からの療養支援を得ていないと感じている、独居している、などが治療を中断された患者の特徴であることがわかりました。糖尿病への理解がある人が身近にいると、食事や運動にも気を遣い、血糖コントロールに影響が出てくるようです。
網膜症あるいは腎不全を新規発症した症例に、何か共通の特徴はありましたか?
2012年の調査では、網膜症および腎症の発症と、「教育歴と所得が低い、生活保護を受けている、雇用状態の不安定など、」が有意に相関していました。これらについては、 既に論文(Funakoshi M. et al. PLoS One. 2017 Apr 24;12(4):e0176087.) にて報告しております。社会格差が要因の一つと考え、問題提起しました。
最後に、今後の診療や研究に関する抱負や展望などを教えてください。
調査項目には、ライフスタイルや社会経済状況が含まれています。調査データの中に、若年者の糖尿病の発症や、その予防・治療の様々なヒントが存在すると考えています。 既に論文 (Azami Y. et al. J Diabetes Investig. 2019 Jan;10(1):73-83.) で、朝食を摂らない・深夜の食事といった食事時間の乱れや、週60時間以上の労働は、血糖コントロールの予後を悪くする要因であることを1年後の前向き調査によって報告しています。今回得られたデータをさらに解析して、若年糖尿病の予防と治療に役立てることができればと考えています。

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